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東京高等裁判所 昭和47年(ラ)574号 決定 1972年11月07日

抗告人 毛利喜八

右訴訟代理人弁護士 小室貴司

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の趣旨および理由は別紙記載のとおりである。

よって按ずるに、本件記録編綴の登記簿謄本によれば、抗告人主張のとおり本件物件については、昭和四四年七月二九日売買予約を原因とし権利者を抗告人とする所有権移転請求権仮登記を経ていることが認められるが≪証拠省略≫によれば抗告人主張にかかる本件建物に関する必要費、有益費の支出はいずれも昭和四六年七月二日以降のものであり、従って、本件物件の任意競売申立の登記のあった昭和四六年六月二六日以後であることが明らかであるのみならず、仮に抗告人が右出捐した費用について留置権を有するとしても、競売法二条二項により競売目的物引渡のさいにこれを満足せしめられる方途を有するものであるから、留置権者は競売法三二条、民事訴訟法六八〇条一項、同六四八条所定の利害関係人に該当するものと認めることはできない。

従って本件物件について留置権を有する者としてなされた本件抗告は、抗告人たる適格を具備しない者によって申立てられたものであって失当である。もっとも抗告人は前記競売申立登記前に売買予約を原因とする所有権移転請求権仮登記(右は本件根抵当権設定登記の後に示されたものであることは登記簿上明らかである)を有する者である点で、これを利害関係人と解することができるが(大審院大正一四年六月一六日決定民集四巻三七〇頁参照)、その主張にかかる必要費、有益費の如きは四三万余円にすぎず、一億八二八万余円を最低競売価格とする本件物件の価格に比すればきわめて微々たるものであって、右の程度の留置権の存否によって競買申出人の意思決定を左右すべきものとは解せられず、従ってこれを本件競売期日の公告に記載しなかったとしても、これを違法とするには当らない。所論の裁判例は本件と場合を異にして適切でない。その余の留置権の被担保債権については証明がない。従ってこの点でも本件抗告は理由がない。

よって本件抗告を棄却することとし主文のとおり決定する。

(裁判長判事 浅沼武 判事 加藤宏 園部逸夫)

<以下省略>

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